THE FOUR ELEMENTS|エレメントが織りなす星座の原風景|水のエレメント|魚座(2月19日頃〜3月20日頃)

火、地、風、水。

この世界が四つの元素によって編み上げられているという思想は、紀元前五世紀のシチリアにその起源を持ちます。

哲学者エンペドクレスはそれらを「万物の四つの根」と名づけ、愛によって結び合わされ、争いによって引き離される運動のなかに、森羅万象の生成と消滅を見ました。

四元素の思想は、ヒポクラテスの四体液説やガレノスの四気質論へと受け継がれ、中世からルネサンスの錬金術を経て、西洋の象徴体系の一部となりました。

占星術においても、十二の星座は火・地・風・水という四つのエレメントに分けられ、それぞれ異なる性質を帯びるものと考えられてきました。

二十世紀、カール・グスタフ・ユングが示した思考・感情・感覚・直観という四つの心理機能は、古いエレメントの象徴を、現代の心理学の言葉で考える手がかりとなりました。

エレメントが示すのは、私たちが世界を受け取り、関わるときの固有の「質」です。本シリーズでは、その違いを十二星座それぞれの特徴から考えていきます。

水のエレメント 憧れという潮流

人は、言葉だけで互いを知るわけではありません。声がわずかに沈んだこと、笑顔の奥にためらいがあること、親しかった二人のあいだに昨日まではなかった距離が生まれたこと。

心は、説明される前からその変化に反応しています。

水のエレメントが注意を向けるのは、こうした目に見えない心の動きです。何が起きたかだけでなく、それが誰の心をどう動かし、関係の意味をどう変えたのかを感じ取ろうとします。

心理占星術では、水のエレメントに、ユングのいう「感情」の機能を対応させてきました。ここでいう感情は、涙もろさや感情の激しさそのものではありません。

ユングにとって感情とは、出来事や人間関係が自分にとってどのような価値を持つのかを判断する働きです。

思考が「それは何であるか」を問うなら、感情は「それは私にとって大切か」「受け入れられるか」「何を守るべきか」と問いかけます。

水の感受性は、心の反応を通して価値を知る働きです。喜びや親しさは近づきたいものを、違和感や恐れは守るべき境界を教えます。

アメリカの占星術家ステファン・アロヨは、水の星座を、自らの感情と深く結びつき、多くの人が見過ごすような機微に同調する存在として描きました。その領域は、強い情熱や圧倒されるような恐れから、世界を包み込もうとする受容と愛にまで及びます。

またアロヨは、エレメントを固定された性格分類ではなく、人がどのように活力を得て、使うかを示すものとして捉えました。水の人にとって、心を深く動かされる経験や、安心して感情を分かち合える関係は、活力を取り戻す助けになります。

水のエレメントが求めるのは、感情が通い合い、自分と世界のあいだに生きたつながりを感じることです。隔たりの向こうにある心へ近づき、深く結ばれたいと願う。この心の動きを、ここでは「憧れ」と呼びます。

この憧れは、蟹座、蠍座、魚座に共通していますが、向かう先はそれぞれに異なります。

蟹座では、魂が帰ることのできる場所へ。
蠍座では、自己と他者が深く出会う一対一の深淵へ。
そして魚座では、あらゆる分離が生まれる以前の、根源の海へと向かいます。

とりわけ魚座は、ひとりの感情にとどまらず、場全体に広がる心の動きや、まだ言葉になっていないイメージを受け取ります。音楽や物語に触れたとき、自分の経験だけでは説明できないほど心を動かされることもあります。

魚座の水は、自分と他者、現実と想像の境界を越えて伝わるものへ開かれています。

魚座 海に還る二匹の魚

Sidney Hall, Urania’s Mirror, Pl.27「Pisces」
1824年(Public Domain)

魚座にまつわる神話の一つでは、怪物テュポンから逃れるため、愛の女神アフロディーテとその子エロスは水中へ身を投じ、二匹の魚へ姿を変えたとされます。

二匹の魚によって救われたという異伝もありますが、いずれの物語でも、水は危機を逃れ、姿を変えて新たな生を得る場所として現れます。

夜空の二匹の魚は一本の紐で結ばれ、その結び目にはアルレシャが輝いています。その名はアラビア語で「紐」を意味します。

一匹は天の光へ向かい、もう一匹は水の深みへ潜るようにも見えます。精神的なものへの憧れと地上の生への愛着、無限へ溶けていく願いと、ひとりの人間として生きる意志を思わせます。

魚座の原風景は、反対方向へ泳ぐ二匹が、一本の紐によって結ばれている、その緊張のなかにあります。

魚座は十二星座の最後に位置し、季節の終わりを次の周期へ手渡す柔軟宮に属します。

伝統的な支配星は、信じる力と寛容さを司る木星。現代占星術では、境界を越える想像力や芸術的霊感を象徴する海王星も支配星とされています。

占星術的な成長の物語において、魚座は、それまでの十一の星座が築いてきた自己の輪郭を、より大きな生命へと開いていく段階を象徴します。

ひとつの周期の終わりであると同時に、次の始まりが準備される段階でもあります。

魚座では、水の感受性が想像力や直観と深く結びつき、個人の経験を超えて繰り返される、神話的なイメージの世界へと開かれていきます。

ユング心理学の言葉を借りるなら、この広がりは、個人の記憶を超えて人類に共有される「集合的無意識」の概念に通じます。神話や夢、宗教的象徴に繰り返し現れる古い心の型を、ユングは「元型」と呼びました。

反対方向へ泳ぐ二匹は、相反する力を同時に抱く心の姿です。それらを結ぶ紐は、どちらかを切り離すことなく、二つの力をひとつの生に保つ結び目なのです。

世界を見ている心を見る

スティーヴン・フォレストは『The Inner Sky』で、魚座の真のシンボルを、魚たちが生きる「海そのもの」と捉えました。あらゆる生命を育み、詩や音楽を運びながら遠く離れた場所をつなぐ、感じることはできても、その全体を知り尽くせない領域です。

フォレストは、魚座の核心を次のように表現しています。

Instead of observing the world, Pisces observes the mind observing the world.

魚座は世界を見ているのではない。世界を見ている心を、見ている。

Steven Forrest, The Inner Sky, Part Two, Chapter Five, “Pisces Endpoint”
/ 日本語訳は筆者訳(AI補助)

魚座の象徴が示すのは、出来事が心にどのような像と余韻を残すかを見つめる意識です。映画館の暗闇で涙を流すとき、魚座的な感受性は、スクリーン上の出来事によって自分の記憶や感情がどう動いたのかを受け取っています。

誰かの悩みを聞くときにも、言葉を情報として処理するだけでなく、相手がどのような世界を見ているのかを、ひととき自らの内側で感じます。

魚座的な慈悲は、相手の感情を自分の内側に受け入れ、「あなたの痛みは、ここまで届いている」と伝える力として現れます。

言葉にならなかった感情が、まなざしや沈黙、音楽や物語を通して誰かに受け止められたとき、苦しんでいる人は、自分が世界から切り離されていないことを、もう一度感じられるようになります。

ただし、共感することと、相手の痛みを自分のものとして背負うことは違います。自分と相手は別の人間だと理解することで、感情を抱え込みすぎず、理解やいたわりとして相手へ返すことができます。

成熟した慈悲は、相手の苦しみを尊重すると同時に、相手が自分の力で生きる余地も守ります。

光と影 共感が同一化に変わるとき

魚座の光は、他者の痛みを感じ、孤独な人のそばにとどまれる慈悲として現れます。

ユング心理学でいう「影」とは、「自分らしくない」「持っていてはいけない」として、意識的な自己像から遠ざけてきた感情や欲望、性質です。

「人に優しくありたい」「誰かを支えたい」という思いが強いほど、自分の怒りや身勝手な望み、「私も助けてほしい」という気持ちを認めにくくなることがあります。そうした気持ちは、意識されないまま、相手への期待や関わり方に表れます。

自分と他者の区別が曖昧になり、共感が同一化へ傾くとき、誰かを救いたいという願いに、自分自身の「私も救われたい」という気持ちが重なることがあります。その気持ちを自分のものとして認められないと、相手を支えることを通して、自分の痛みも癒そうとするようになります。

すると、相手から必要とされることが、自分の存在価値を確かめる手段になっていきます。自分が傷ついても尽くすことを愛の証と感じ、誰かを救うことと自分を犠牲にすることが、無意識のなかで分かち難く結びついてしまうのです。

こうして相手を支え続けても、自分のなかの「救われたい」という願いが満たされるわけではありません。そのため、相手が自分の力で立ち上がろうとすると、「もう自分は必要とされていない」と、かえって不安や寂しさが生じることもあります。

変容は、「私も救われたい」という願いを、自分自身のものとして認めることから始まります。自分の痛みに耳を傾け、自分も誰かの支えを受け取ってよいと許したとき、慈悲は自己犠牲から解き放たれ、相手の力を信じる関わりへと成熟していきます。

もうひとつ、影として現れやすいのが、現実から少しずつ離れていくことです。周囲から受け取る刺激や感情の処理に力を使い果たし、目の前の仕事や関係を惰性で引き受けるうちに、自分で選んで生きている実感を失っていきます。

読書、音楽、空想、映像、食事、睡眠は、疲れた心を回復させるものです。一方で、不安や孤独を意識しないために、映像を見続けたり、眠り続けたりすることもあります。

その時間が自分を回復させているかどうかは、終えたあとの状態に表れます。気持ちが落ち着き、現実の課題に向き合う力が戻っているなら休息です。疲れているのに止めることが難しいなら、不安と向き合うことを避ける手段になっています。

ユングが「個性化」と呼んだのは、影に置かれたものも自分の一部として引き受け、より全体的な自己へ育つ過程です。魚座にとってそれは、慈悲深い自分と救われたい自分を、ともに意識のなかに置くことです。

魚座にとって、精神的なものを求める心と、地上で生活する身体の双方を意識することが大切です。感受性や霊性は、日々の選択や行動に表されたとき、現実の力になります。

四つのエレメントの調和のなかで

地・火・風のエレメントは、魚座の感受性を現実の生活で生かす助けになります。地は身体や習慣という基盤を、火は「私はこれを望む」という意志を、風は感情を言葉にし、自分と他者を見分ける視点を与えます。

魚座は、地が重視する日常の営みに意味を見いだし、火の情熱に慈悲の視点を加え、風の言葉に感情の細部を補います。

四つのエレメントが互いを補うことで、魚座の感受性は、具体的な行動や表現として他者に伝わるようになります。

現代を生きる魚座へ

速度と効率が重視される社会では、境界の薄さは「打たれ弱さ」と誤解され、言葉にしにくい直感は退けられがちです。それでも、人生の深刻な岐路で人が求めるのは、正しい説明だけでなく、そばにいて言葉にならないものを共に抱えてくれる人です。

音楽や物語、絵画や祈りが疲れた心の回復を助けるように、言葉になっていない感情や、社会の片隅に残された痛みを表現することは、魚座の感受性を生かす方法のひとつです。

その感受性を保ち、日々の生活で生かすために、三つの実践があります。

静けさへ戻る

アロヨは、水の星座が繊細な感受性を保つには、外部の影響を遠ざけ、内なる静けさを確保する必要があると述べています。

スマートフォンの通知を切り、画面を伏せ、ひとりになれる場所で数分過ごしてみてください。目を閉じて呼吸の感覚をたどったり、窓の外の空をぼんやり眺めたりするだけでも、外から受け取った感情と自分の感情を見分けやすくなります。

身体へ戻る

眠ること、温かいものを食べること、歩くこと、湯に浸かること。

こうした素朴な営みが、考えや想像に偏った意識を、現在の身体感覚へ戻します。身体の状態に注意を向けることは、他者の感情や多すぎる情報から距離を取る助けにもなります。

感じ取ったものに形を与える

散歩の途中で撮る一枚の空。日記に綴る三行の言葉。ひとつの旋律、誰かへ宛てた手紙。

上手である必要はありません。曖昧だった感覚を言葉やイメージにすることで、自分が何を感じていたのかを理解し、他者と分かち合えるようになります。

精神的な憧れと日々の生活

人の心には、本人にもまだ名前をつけられない感情があります。魚座の感受性は、悲しみも喜びも、愛も不安も、言葉になる前のかすかな心の動きとして受け取ります。

その感情が誰かに受け止められると、人は自分の内側で起きていたことに気づきます。安らぎを取り戻し、流せなかった涙を流し、喜びを誰かと分かち合えるようになる。魚座の感受性が生きるのは、このように、相手が自分の心を取り戻すのを支える場面です。相手の痛みを背負うのではなく、その人自身が回復する力を信じてそばにいる。それが、自己犠牲を越えた慈悲です。

天の光へ向かう魚と、水の深みへ向かう魚。異なる方向を求める二匹が、それでもひとつの星座を形づくっているように、精神的なものへの憧れも、身体をもつひとりの人間としての生活も、魚座にとって欠かすことのできないものです。その両方を結び、感じ取ったものを現実の行動や表現へ移すとき、魚座の感受性は、自分と誰かの生を静かに支える力になるのです。

鏡に映す 四つの問い

  • いま抱えている重苦しさのうち、本当にあなた自身のものは、どれくらいありますか。
  • あなたが誰かを救いたいと願うとき、その奥に、あなた自身の「救われたい」という声も響いてはいませんか。
  • 最近深く没入した時間は、現実へ戻る力を養ってくれましたか。それとも、気がかりなものとの対面を先延ばしにしていましたか。
  • 気持ちを落ち着かせ、現実の生活に意識を戻す助けとなるものは何ですか。

参考文献

  • Stephen Arroyo, Astrology, Psychology and the Four Elements: An Energy Approach to Astrology and Its Use in the Counseling Arts, CRCS Publications, 1975.
  • Steven Forrest, The Inner Sky: The Dynamic New Astrology for Everyone, Bantam Books, 1984.
  • ケヴィン・バーク『占星術完全ガイド 古典的技法から現代的解釈まで』伊泉龍一訳、フォーテュナ、2015。
  • 河合隼雄『ユング心理学入門』培風館、1967(岩波現代文庫版、2009)。
Johann Elert Bode, Uranographia, Pl.XI
「牡羊座と南北の魚、そして魚たちを繋ぐ紐」1801年
(Public Domain)

 

THE FOUR ELEMENTS|エレメントが織りなす星座の原風景

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古代ギリシャの哲学者たちは、この世界を構成する根源的な力として、火・地・風・水という四つの元素(エレメント)を見出しました。占星術では、12の星座がそれぞれこの四つのいずれかに属しています。

あなたの星座のエレメントは、あなたが世界を感じ取るときの「質」のようなものです。火は直観で動き、地は五感で確かめ、風は言葉で理解し、水は感情で受け取ります。同じ火の星座でも、牡羊座の火と獅子座の火と射手座の火は、まったく違う燃え方をします。

心理占星術の第一人者ステファン・アロヨとスティーヴン・フォレストの著作、そしてC・G・ユングの心理学を手がかりに、12星座それぞれの原風景を訪ねていきます。あなたのエレメントの物語を、ここから読み解いてみてください。

火のエレメント 直観という炎

まだ形になっていない可能性を嗅ぎ取る力。事実を確かめるより先に、その向こう側が見えてしまう知覚のかたちです。

地のエレメント 五感という確かさ

手で触れられるもの、目で確かめられるものを信じる力。時間をかけて、確かなかたちを積み上げていく知覚のかたちです。

風のエレメント 言葉という光

混沌としたものを概念で切り分け、客観的に眺める力。人と人のあいだに、意味の橋を架ける知覚のかたちです。

水のエレメント 憧れという潮流

心がどう揺さぶられたかで世界を受け取る力。目に見えない感情の機微に、絶えず共鳴しながら生きる知覚のかたちです。

Voyage d’Étoiles

星の言葉、カードの秘義、植物療法と美の技法。古来の叡智があなたを本来のあなたへ還す旅へ誘います。

※ 各記事は順次公開予定です。

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