つづき
ユングが勤めていた精神病院で、一人、奇妙な患者がいたそうです。
彼は分裂症の患者であり、他の医師は彼の行動に対し「理解不能」のレッテルを貼りました。
ですが、窓の外を見上げては、首を左右に振っているその患者が気になったユングは、「いったい何をしているんですか?」と声をかけました。
すると、その患者は答えました。
「あれが見えないのかね。太陽から巨大なペニスが下に伸びているだろう。頭を左右に振ると、その筒も同時に揺れる。それが風をこの世に起こしているんだよ」
ユングは、「奇妙なことをいうもんだ」と聞き流しました。
しかし、それから数年後、古代宗教に関する論文を読んでいたユングは、古代ギリシャの秘儀宗教の儀式文書に突き当たり愕然とします。
なんとそこには、あの患者の空想と全く同じ記述があったのです。
もちろん、この患者が古代ギリシャの宗教の知識を持っていたとは考えにくく、
だとするならば、人というのは、神話と同じようなイメージを、誰に教わるわけでもなく生み出すことができるのではないか・・・という仮説のもと、ユングは神話の研究に乗り出しました。
そしてユングは、神話のなかに現れてくるようなイメージを生み出す核を、「アーキタイプ(元型)」と名付け、アーキタイプは、人の集合的無意識の深い層にあり、それぞれが人の経験を生み出し、色づけていると説明付けたのです。
話は逸れるのですが、鏡先生の〈タロット こころの図像学〉という著書の中にも、こんな一文があります。
ユング自身はタロットについてはまとまった記述をしていないが、現代のユング派の分析家のなかには積極的にタロットを用いている人も少なくない。
「タロットの切り札の絵柄は象徴的な物語である。夢と同じように、それは意識の射程をはるかに越えた、知的理解から遠いところからやってくる」。
チューリヒでユングの存命中に学んだユング派の分析家であり、ロスアンジェルスのユング研究所で指導的な立場にあったサニー・ニコルズは、著書『ユングとタロット』のなかでこう語っている。
占いではタロットの札が自分の状況をいい当てているように見える。実際、タロット占いはユング派の分析家が認めるほどに自己発見のツールとして有効である。
それは、タロットのなかに秘教的な要素があるからではなく、だれしもに当てはまる、人間経験の真実があるからなのだ。
———鏡リュウジ「タロット こころの図像学」序文より一部を抜粋———
そう、タロットカードに描かれる図像もまた、人間の集合的無意識にある「アーキタイプ(元型)」を絵によって表現しており、
それを目にすることによって、意識の深層にアクセスすることができるから、本人にも認識できていないような意識を表面化させたり、心を言い当てられたと感じるようなことが度々起こるのです。
占星術というのは、神話のモチーフに満ち満ちています。星座、ハウス、惑星、どれもすべて神話的なモチーフです。
占星術だけではなく、東洋の占いもすべてアーキタイプからできています。だからどれも、共通点が見られるのです。
私は、とても不可思議でした。
紀元前2千年にバビロニアで生まれた占星術、15世紀北イタリアで生まれたタロットカード、古代中国で生まれた易、その他の東洋の占術に根本的な共通点があることが。
でも、これらすべては、このアーキタイプから来ているのだと知り、妙に納得ができました。
ギリシャ神話、日本の神話、そして占星術などは、ユング心理学の考えに従えば、それは同じ水脈から出てきた、何本かの支流であり、その間には、同じようなモチーフ、同じようなイメージ、同じような経験の語り口が含まれているのだと、鏡先生は述べられます。
火地風水の4パターンは、もちろんアーキタイプ的イメージの現れです。
タロットカードも占星術も、火地風水によってその根本的な性質が分類されていますが、現在でも多くの性格分析チェックにはこの4分類がもととなり作られているのではないでしょうか。
活動・不動・柔軟の森羅万象の状態も、普遍的なイメージですよね。
そして、占星術の惑星は、神話の登場人物と結び付けられて、そのイメージによってホロスコープは解析を行うのですが、それはまさにユングのいう集合的無意識にあるアーキタイプのイメージと一致するのです。
(神話の登場人物がどのように人間の集合的無意識の中のアーキタイプに結びついているのか、ということについては、長くなってしまうのでここでは割愛しますが)
ここまでいうと、性格分析には、占星術やタロットカードはものすごく使えるものなのではないかと思えてきますよね。
実際に、私自身は自分の思考・行動パターンや性格を分析する為に、占星術やタロットカードは、本当に有効だと考えていますし、とても当たると思っています。
まぁ日本では、精神科医が占星術やタロットカードによって患者の症状を分析することなどあり得ませんから、ひとつのエンターテイメントとして楽しむ程度が良いのかもしれませんが、
その源流がどこにあるのかを、知って楽しむのと、知らずに楽しむのとでは、面白みも、深みも変わるように思います。
さて、この本の中で、鏡先生が最終的に、「占いがなぜ当たるのか」ということに言及し始めるのは、300ページも後半に差し掛かってからのこと。
でも、正直、この結論がどうだったかというよりも、これまでの鏡先生のお話がとても面白く、学びの多いものだったので、結論はここでは書きません。
まだまだ、ここには書ききれないエピソードがたくさんありますので、是非気になった方は本書を手に取ってみてください。(個人的には、ホラリー占星術も学んでみたくなりました。)
そして、私自身の「占いはなぜ当たるのか」についての考えを少し書きたいと思います。(長くなってしまうので、ご興味がある方だけお読みくださいね)
そもそも「占い」というのは、「アロマセラピー」に、とても性質が似ていると思っています。
エステティックや化粧品に関しては、日本においては法整備が整っていない部分、不十分な部分もありますが、基本的には科学的根拠が必要である分野です。
ですが、アロマセラピーに関しては、昔からの言い伝えや、感覚的な効果によってその分野が成り立っているところがあり、実は科学的根拠はないというものがほとんどなのにも関わらず、占いと同様、時を経ても廃れることはなく、世界中の人に愛されています。
一つ例を挙げるとするならば、クラリセージという精油には、女性ホルモン様作用があると言われているのですが、
これは、ほとんどのアロマセラピストや、アロマをかじったことがある人なら、誰もが知っていることであり、ネットで検索しても、どの本を読んでも「クラリセージは女性ホルモン様作用がある」と書かれているほど、よく知られた情報です。
世界的権威のある英国IFA(国際アロマセラピスト連盟)の資格試験用のテキストにも同じように記載されています。
クラリセージに含まれる「スクラレオール」という成分が、女性ホルモンの「エストロゲン」と似た形をしているから、そう言われるようになったのです。
アロマセラピーの現場では、更年期を迎えエストロゲンの生成が少なくなった女性に対してクラリセージを使用したり、エストロゲンには子宮を収縮させる作用があるから、妊婦さんには必ず避けるようにと指導されています。
ですが、実際には、「スクラレオール」と「エストロゲン」の形を比較してみると、実はほんの少し形がカスっているだけで、ほとんど別物であるということがわかります。
すなわち、「スクラレオール」という成分に、エストロゲン様作用など、ほぼ0に等しいほど「無い」のです。これが、科学的な真実です。
(ただし、精油というのは生薬の一種であるから、新薬とは違い、まだ解明も、発見すらもされていない数千・数万の成分が雑多に含まれているわけで、この「スクラレオール」にエストロゲン様作用がなかったとしても、まだ発見されていない成分にそのような効果があるかもしれない、、そんな可能性や夢を完全に捨てることはできませんが・・・)
科学で解析をすると、精油のエストロゲン様作用というのは、その程度というか、実は「無い」ということがわかっているのです。
私自身、これを知った時は、とてもショックでした。精油ってその程度なんだ・・・って。
(補足をすると、もちろん精油成分には、科学的にしっかりとその効果を認められているものもあり、そういった成分は、様々な殺虫剤や抗菌剤、整腸薬、風邪薬などの新薬に取り入れられています。でも、わかっていないものや、イメージが事実とは異なる事例もたくさんありますよ、ということを伝えたかったので、クラリセージの例を出しました。
占星術もこれと似ていて、ある一部は科学的に証明されましたが、それ以外の多くのことに関しては科学の前に敗北しています。)
精油においても、占いにおいても、「限界を知る」ということが、とても大切です。そして限界を知るためには、ある程度深く学ばなければなりません。
日本では、アロマセラピーはあくまでも「リラクゼーション」の分野ですから、「治療効果」を謳ってはいけません。でも、限界を知らない知識のないセラピストほど、「アロマは○○に効く!」「アロマで○○が治る!」などと言ってしまいます。(法律違反です)
中には、西洋医学を否定し、自然療法に過度な期待をしてしまう人、偏ったものの見方をしてしまう人もいますが、自然療法の限界を正しく学び、それぞれの性質の違いを理解していれば、そのような思考にはならないはずです。
そして、占いも同様に、「限界を正しく理解する」ということが大切だと思っています。
なんだか魔術的な効果があるような気がしてしまう方もいるかもしれませんし、科学的根拠はないけれど、だからといってまったく効果がない、当たらないのかといったら、それも違うものだから、アロマより占いはタチが悪いのです。
でもね、精油に話を戻して、女性ホルモンという観点でいうと、クラリセージを使ったアロマセラピーを受けるより、科学的に女性ホルモン様作用が認められている「大豆イソフラボン」を摂取した方が効果があるのか・・・と言ったら、
そうとも言い切れないと、私は思っています。※
※ 実際に、厚生労働省は大豆イソフラボン中の「ゲニステイン」に女性ホルモン様作用があることを認可しており、それがゆえに妊婦には危険ではないかとの危惧があり、摂取上限値を定めました。ただ、そんな「ゲニステイン」であっても、期待される女性ホルモンの分泌亢進や合成の効果は、エストロゲンの419分の1の効果しかないということがわかっており、実は、卵巣機能が活発な女性においてその効果はほとんど意味がないということがわかっています。それどころか、逆に取りすぎは良くないということで、摂取上限値が定められているのです。
なぜなら、プラシーボ効果というものが絶大な効果を発揮することもあるからです。
アロマに詳しくないお客様が、プロのアロマセラピストにクラリセージを差し出され、「女性ホルモン様作用があるから、更年期障害が楽になりますよ」と説明され、トリートメントを受けたら、心地よいハンドタッチとあいまって、本当にその日は更年期障害の症状が緩和する、なんてことは十分にありえるお話です。
その効果は、豆乳を飲むよりも、体感的にも心理的にも、大きく感じることでしょう。
アロマセラピーを受けることによって自律神経が整いますから、スクラレオールの成分が効いたわけではなくとも、更年期障害や月経前症候群(PMS)の症状が緩和したり、ホルモンバランスが整い、生理不順の改善や、お肌が美しくなることは十分に考えられます。
またトリートメントで深い眠りにつくことで、心身の疲労回復や、ストレスの減少にも繋がります。すると、ずっと身体の不調に悩まされ、鬱々としていた心が、ふっと軽くなり、前向きになれることもあるのです。
ですから、女性ホルモン様作用がなかったとしても、結果的に、それはその方にとってプラスになるのです。
逆に、ご懐妊をされているお客様が、何の説明もなくクラリセージをトリートントに使用されてしまったら?
ネットや人伝に、クラリセージは妊婦には使用してはいけない精油であることを知った時に、そのアロマセラピストへの信頼は間違いなく失われ、胎児に悪影響がないだろうかと不安で夜も眠れなくなってしまうかもしれません。
占いも同様に、信頼できる占い師に、親身になって話を聴いてもらい、ずっと抱えていた鬱々とした気持ちや不安な思いを吐き出して、前向きで、背中を押してもらえるような鑑定結果を告げてもらえたら・・・
例え、その鑑定結果に、科学的根拠がなかったとしても、鬱々とした気持ちが晴れ、前向きになれるかもしれません。
そしてその結果、未来が占い師の鑑定通りになっていく・・・という可能性は、十分にあると思うのです。
ですが逆に、占い師に呪いのような、不安を煽る言葉ばかりを言われたら、とても不安になり、鬱々とした気持ちはさらに深くなってしまいますよね。
どんな「情報」を持っているか
どんな「知識」を持っているか
どんな「言葉」をかけられるか
それによって、占いやアロマセラピーに含まれる、目には見えない成分の効果や濃度は、良くも悪くも大きく変わっていくのです。
だからこそ、騙されない為に、悲しい思いをしない為に、何より自分をしっかり持つことが大切です。
(法外な金額を請求したり、恐怖を与え信者にさせる、何かを買わせるなどの霊感商法は後を絶ちませんので、法整備が進んでほしいと願います。)
日本では宗教への関心や信仰心が海外に比べ少ない為、何を信じて生きればよいのかがわからないという方も少なくはないでしょう。
そんな時に、羅針盤となれるような、心のお守りになれるような、占いができる人でありたいと私は思います。
「予言」としての占いではなく、「現状認識」であったり、「未来予測」であったり、「性格分析」による向き不向きの判断材料として、「思考の整理」においてなど、
占いは、自分の中にあるパターンを見出し、未来を切り拓いていく為に有効なツールです。
でも、それに縛られる必要は一切ありません。
占いを参考にするのは良いですが、占いによって一喜一憂したり、流されたり縛られる必要なんて、全くないのです。だって科学的根拠はほとんどないのだから。
人生は、自分の意志によって創り上げていくことが可能なのです。
神話のなかの多くの英雄が、それを示しているように。
私が言いたかったことは、こんなことでした。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
皆さまが益々開運されていかれますことを、心よりお祈りしております^^💗💗💗
MARIA LILY